東映アニメーション研究所

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野沢雅子氏・特別講義
            
野沢雅子氏プロフィール

声優としてこれまで多くの作品に出演。
現在も人気アニメのキャラクターなど広くご活躍なさっていらっしゃいます。
オフィス野沢所属。

主な作品歴
 ど根性ガエル(ひろし役)
 銀河鉄道999(星野鉄郎役)
 ゲゲゲの鬼太郎(1作目・2作目)(鬼太郎役)
 ドラゴンボール・シリーズ(孫悟空役)   他多数

特別講義・野沢雅子氏 1 
 私はこの世界に初期から入ってますので50年くらい経ちました。
 実は今声優という世界にいますけど、私がこの世界に入ったのは、
声優になりたくて入った訳では無いんですよ。舞台が好きで劇団に入っていた人間なんです。
  この芸能界には、右も左もわからない2歳からいるんですよ。なぜ2歳からかというと、私の叔母が松竹蒲田時代のスターだったんだそうです。叔母としては私を映画界で自分の後を継がせたかったんだと思うんです。
  昔はテレビが無かったですから、家での娯楽はラジオでした。ドラマを見たいと思ったら、お金を払って映画館に足を運ばなければ見られなかった時代だった訳です。
 だから私も映画から出発している訳ですよね。昭和28年にテスト放送でテレビが入ってきた訳ですよ。
 その時代は生本番ですから、間違ったら間違ったまんま全国に放送されちゃうんです。

特別講義・野沢雅子氏 2
 間違いはずいぶんありましたよ。高校からずっと舞台やってたもんで、セリフは覚えが早いほうだったんです。テレビに出るとしても、18・19の子供だし生本番でもそんなに恐れってものは無かったのね。それが三十代の人は、やっぱり緊張しちゃって大変だったと思いますよ。
 それまではワイワイやっていても本番前になると、秒読みがあるんですよ。一分前から入って、十秒前からはもう大人の人たちは緊張して、心臓がバクバクしていたと思います。私は10代でスタートしてますから、結構落ち着いていて、実は未だにあがると云うことを知らないんですよ。私はあがると云うことに憧れがあるんですよ。緊張が無いかといったらそんなことは無くて、私なりに緊張はしてるんですけど別にあがってないんです。
 そんな中でやってきて私は助けてあげられたかなァーと思うことがあったんです。たった二人の親子もので三十分ドラマだったんです。アシスタントの人がキューを振って、それで私が相手役にお茶を出したら、お父さん役の人の手が震えてて「うわ、緊張してる!」と思ったら、第一声はお父さんなんだけど、何にも云わないのね。
 このまんま30分終わっちゃったら大変だなと思って、私は相手役の台詞も全部覚えてますから、云っちゃおうと思って「お父さん何考えてるか、私わかる」なんて云い出してそれでお父さんの台詞を云ったら「うん、そうだ」って云うんです。私が返せば返ってくるもんだと思ったら、また黙ってる。ずっと30分間ですよ!信じられます?私1人でお芝居してしまったんです。今となっては、楽しい思い出話になっています。
 ドラマが終わって「雅子ちゃんありがとう」って、そのとき帰りにおごって貰ったのがうなぎなんです。うなぎはね、その頃のとちったときの後輩に対する口止め料みたいな感じなんです(笑)

特別講義・野沢雅子氏 3
 そうやっていくうちに、だんだんと時代が変わっていって、アテレコが入るようになって来たんですよね。
どこの世界でも基礎と歴史ってのはありますよね。みなさんもこれからはどんどん新しいものを取り入れてやっていかなければならないんだけど、この新しいものを取り入れるというのは、基礎と歴史を知らなければ広げていけないと思うんですよ。
 どこの世界でもそうだと思うんです。会社だってそうじゃないですか、そこの会社の歴史というものが分からなければ、何か新しい事をするにしたって前に進んでかないと思うんです。人物ひとつを描くにしても、東映さんは東映さんの歴史があるわけですよ。その歴史をきちっと踏まえたうえで、みんなには新しい世界を広げて欲しいんです。
 どれひとつとってもほんとに歴史が変わったんですよ。この建物自体も私は度肝を抜かれるくらいびっくりするんです。この素晴らしい建物、昔はねすごかったんですよ。鉄筋ではあったんですけど、ほんとに古くて薄暗くて(笑)
 私が初めて頂いたアニメの主役は、モノクロ時代の『ゲゲゲの鬼太郎』だったんです。それの録音にはぴったりのスタジオでしたね。それが二、三年前に同じスタジオを見てびっくりしたんですよ。「えー!何これは!」って、でもみなさんはこの素敵な建物から出発ですから恵まれてますよ。そしてこんなに立派になった、ここから巣立って行くんですから。だから昔の様子もチラッと頭に入れて置いてください。

特別講義・野沢雅子氏 4
 吹き替えのアテレコで「とちる」って云うのは、不思議に「はい」とか「判りました」とか簡単な台詞でとちるんです。英語が話せる人は自分と訳し方が違うからとってもやり難いんです。私はわからないので、ただひたすら信じて、テンポと台本を信じて、あちらの役者に合わせて入れるからぴったり入りますけど、どんなに私が英語知らなくてもYES,NO,OKくらいはわかります。
 それが曲者なんですよ。一番最後に新人が、耳にぴったりついたレシーバーから、英語で「OK」って聞こえてくると、思わず「オッケー」って不思議に言ってしまうんです。「オッケー」じゃなくて「はい」なんです。台本に「はい」と書いてあれば「オッケー」と言ったら駄目なんです。
 それでNGで頭から撮りなおしになってしまう。先輩は怒りますよ。後輩は泣きながら「すいません」と謝るんですが、当時先輩も若いですから「一言くらいきちんと言ってくれよな」って、そう言われたら新人は只オロオロしてしまいどうしようも無いでしょう。でも、それは先輩の愛の鞭だと私は思ってました。そういう愛の鞭の中で役者として育ってきたから、今の古い人達はあるんだと思うんです。
 生温い所で育ってきてしまうと、やっぱりどこか緩みがちなんですよね。今の若い人達っていうのは、とっても怒られ下手ですよね。怒られるとめげてしまって、もう辞めたいってなってしまうんです。自分で目指した道なんですから厳しい言葉が飛んでくるのは当たり前なの、先輩だって怒りたくないんですよ。でも育てようと思うから怒るんであって、怒られる人より、怒る人の方が何倍もの力が要るんです。今の人は怒られないで育ってきてるから、ムッとしてしまうんです。腹を立ててしまうのは損だと思いなさい。怒られて「ありがとうございます」というのは悔しいと思うでしょうけど、感謝の気持ちを大切にその一言、それが良いんです。それがバネになるんだから。そうやってこれから勉強していって頂きたいと思います。

特別講義・野沢雅子氏 5
 アニメーションというのは基本は、子供のものだと思うんです。ゴマを擦る訳じゃないんですけど、東映アニメーションの良いところは、子供さん向けのアニメーションを多く製作しているところだと思います。だから子供さんにたくさん見て欲しいなと思っているんです。こんなこと云ってはいけないかも知れないんですが、これは私個人の意見として聞いてください。私はもっと小さい子供さんに見られるものをたくさん作って欲しいなと思うんです。
 今はちょっとターゲットが上になっちゃっている作品が多いんですよ。世の中の流れで仕方ないと思うんですけど、でもやっぱりアニメーションなんだから子供はそれを見て育つんですよ。それを見て成長して、色んなものを身に付けるんですよ。お勉強になるんです。アニメーションは道徳になるんです。漫画から教えられる事はたくさんありますよ。アニメを見た患者さんの延命をしたと云う、お医者さんからの手紙を貰った事もあります。それほどアニメの力って強いんです。

特別講義・野沢雅子氏 6
 みなさんはこれからの人です。これから色んな機械が出てくると思います。どんな機械が出ても、ハートだけは忘れないでください。人のハートはどんなに世の中が進んでも機械ではできません。絵が出来上がるときに、どんな機械を使っても、その機械から絵になるまでの間は絶対に自分の気持ちで繋いでください。出来上がったものが違います。私たちも見てて、自分の中に入ってくるものがやっぱり違うんですよ。
 最近、機械で作った絵だととっても綺麗なんだけど、私の中にくるものがなんか冷たいんです。どっか私の中ではまだ慣れない所為もあって、ひとつ薄い壁が出来てしまっているんです。きっとそれだって、皆さんが気持ちを入れてやっているんだと思うんです。それは分かるのです。事務的には絶対にやって欲しくないんです。だからその気持ちが私の中に伝わってくるように、私も努力しなきゃいけないなと思うんです。
 やっぱり役者って、ホット(・・・)な気持ちが入っているものは分かるんですよね。動きを見てると「生きてる。人間が動いているよ」って、ただ動かされてる絵面だけで綺麗に動いてるだけじゃ駄目なんです。アニメーターの方が一本の線にしても自分の手で命を入れて、生きた人間を表現してくださって、ひとつの作品が出来上がってる訳じゃないですか。
 最後の仕上げとして、私が声優として心がけていることは、綺麗に言葉だけ入れたんじゃ駄目なんです。せっかくそこまで出来上がってきたものを殺してしまう訳でしょう。生きた絵に対して、私たちが殺してしまってはいけないんですよ。それをより(・・)生かさなくてはいけないのが私たちの役目だと思っています。
 どんな絵を機械で作っても、描いている人から機械を通して作品になっていく間の気持ちは繋がっています。これからやっていく皆さんは、ハートと云うのを忘れずに作品に携わって頂きたいと思います。

| 特別講義 |
- (2008/12/17 3:29 PM)
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