東映アニメーション研究所

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田中真弓氏・特別講義(2008年)・3


特別講義・田中真弓氏 3 
■想像力 生きている人間像
 2番目は想像力です。アニメの演出家の方に「この人はそういう言い方はしない」っていう駄目出しをもらうことがあるんですけど、それはちょっと想像力がないんじゃないかな、と思うことがあります。ただ、アニメは3、4時間で1本録らなきゃいけないので、なかなか演技を掘り下げる作業がしにくいのも確かなんですね。でも稽古場では、極力いろんな想像力をたくましくして、お互いに“生きてる人間像”を作っていきたいなあ、と思っています。台詞が氷山の一角だとすると、その下にあるものを想像するんです。例えば、「ただいま」という台詞があったとして、それを可愛く「ただいま」と言ったとします。だけど、その前に、どこから帰ってきたの? どういうことがあったの? デートから帰ってきたの? というようなことを想像してほしいんですね。そういうことによって、類型ではない、生きた人間像が出来上がってくるんですよ。
『ワンピース』の中で今、私が大好きな俳優さんが入ってくれています。ブルックの声をやっているチョーさん……本名は長島(雄一)さんと言うんですが、その彼の思い出で、『モジャ公』という作品をやった時のお話をしたいと思います。当時のチョーさんは顔出しの仕事が多く、声優はあまりやってなかったんですね。その時も用務員さんの役で、学校の廊下で脚立に乗って、壁にポスターを貼っているんですね。そこに、私のやっているモジャ公がフワフワ飛んできて、それを見た用務員さんが「ワッ」と驚いて脚立から落ちちゃう。台本にある台詞はその「ワッ」だけ。私がすごい感心したのは、その手前に、用務員さんの見た目で廊下を歩いているカットがしばらくあるんですが、チョーさんはそこで「ン〜ン〜♪」という演歌か何かの鼻歌を歌ったんです。見る人が何を感じられるかというと、用務員さんは多分前の晩、宿直だったんだろうと。1人で飲んだな、それで酒がちょっと残ってるな……もちろんそんなシーンはないんですよ。でも、その用務員さんの鼻歌と「ワッ」の台詞だけで、用務員さんの生活感が表現されていたんですね。もちろんそこは採用になりました。すごいなあと思って。その用務員さんの家族構成まで見えちゃうような。俳優の仕事っていうのはこれだよなって。私はだからチョーさんが『ワンピース』に入ってきてくれたのがすごくうれしいんです。
(編集構成:原口正宏)
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