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堀江美都子氏 特別講義(2009年)・4


堀江美都子氏 特別講義(2009年)・4

 声優デビューしたての私に、現場の音響監督さんは何もおっしゃってくれませんでした。普通なら収録中に演技指導が入るのですが、一言も声をかけてくれないんです。
 とうとう不安のあまり、「どうして何も言ってくれないんですか?」と訊ねたら、音響監督さんはこう答えました。
「何か言うレベルにさえ達していない」と。
 それほど未熟だった私がここまでやって来られたのは、アニメはみんなで力を合わせて作るものだと教えてくれた、共演者やスタッフの皆さんのおかげです。特に、現場の厳しさだけでなく楽しさも経験させてくれたことには、本当に感謝しています。

 けれど、それからも決して順調ではなく、新しい悩みを抱えるようにもなりました。自分の名前がアニメのタイトルと並べて語られることに、疑問が生じてきたんですね。
 ちょっと頑張り過ぎちゃった時期だったのかもしれません。若さにまかせて突っ張って、一人のシンガーとして認められたいと意気込むあまり、オリジナルアルバムの曲を披露するステージでは、アニメの歌は歌わないと心に決めていたことさえありました。
 今だからこそ確信をもって言えるのですが、自分自身を通して表現する限り、歌の価値に違いなどないんですよね。
 それに、アニメの歌って、愛や夢をまっすぐに謳っているものが多いでしょう? 私にとっては、やっぱりかけがえのないものなんですよ。

 やがて第二次アニメブームが訪れ、主題歌を歌う機会も少しずつ減ってきました。私生活でも結婚をして、人生の転機に差しかかっていました。
 これからどうすべきか、自分自身を見つめ直してゆかねばならないと考えていた時に、『ポリアンナ物語』の声優としてオーディションを受けてみるよう、声をかけて頂いたんです。
 合格してヒロインのポリアンナを演じることになった時には、思わず胸がいっぱいになりました。一から苦労を重ねてきた声のお仕事で、ようやく認めてもらえたわけですから。止まりかけていた歯車が、ポリアンナのおかげで再び回り始めたような気がします。
 “良かった探し”をするポリアンナは、「良かった!」という台詞を頻繁に口にするんです。はじめは、これが上手く言えませんでした。
けれど、演じているうちに自然と、普段の生活の中でも「良かった」という言葉が、口をついて出てくるようになりました。そうすると本当に、“良かった”ことが多い毎日に変わっていったように思います。
 それからは、色々なキャラクターを演じさせてもらうようになりました。『Dr.スランプ アラレちゃん』のオボッチャマンとの出会いは運命的でしたし、『聖闘士星矢』では、ヒルダという生まれて初めての悪役を任されました。
 今だから言っちゃいますけど、ヒルダの場合は台詞回しが独特なこともあって、収録中によく腹筋がつってしまいましたけどね。

(編集構成:本川耕平)
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